吉田金属工業様

世界に愛されるMade in Japan

左:営業部 営業1課 主任 本田美桜様  右:営業部 営業1課 課長 鈴木信一様

デザイン性と冴えわたった切れ味が特徴のオールステンレス包丁ブランド「GLOBAL」を手掛ける吉田金属工業株式会社。Made in Japanの魅力的な包丁は海外から知名度があがり、2024年で創立70周年を迎えるステンレス包丁メーカーです。
世界各国から多くのユーザーが訪れる旗艦店の六本木直営店にて製品の背景秘話を伺いました。

カトラリーメーカーとしての背景があったからこそ、GLOBALが生まれた

ステンレスのカトラリーメーカーの御社が包丁をメインに舵をきったとき、どういった想いや背景があったのでしょうか。

鈴木様:当社は洋食器、主にカトラリーのメーカーとして1954年に創業いたしました。今年で70周年と、節目の年を迎えます。創業地は新潟県の燕市で、地場産業として洋食器の製造が非常に盛んな地域です。


2024年に創業70周年を迎え、GLOBALは長年愛されているブランドに

鈴木様:ステンレスの包丁を作った背景としましては、創業者であり当時の社長渡邉勇蔵が、ステンレス鋼材の業者さんに工場見学に行った際、ステンレスで作られた包丁をサンプルでもらったことがきっかけでした。
当時は包丁と言えば、鋼が一般的でステンレスの包丁はまだ珍しく、切れ味も悪いと認識されていました。その頂いたステンレスの包丁を実際に試してみたところ、自分が思っていたほど切れ味は悪くなく、思いのほか良いんじゃないかと感じたようで、ステンレス包丁を自社の産業に生かして開発してみようという思いに至ったそうです。

ターニングポイントになるような、運命の出会いですね。

鈴木様:そうですね。そこから社内でプロジェクトチームを立ち上げて、製造技術などを工夫していく流れのなかで最初に生まれたのが、文明銀丁という包丁です。ステンレス製の本体と、オーソドックスな木の柄をつけた商品で、ステンレスなので錆びにくく、また鋼にも劣らない切れ味といったところが高く評価されて、当時の吉田金属工業の主力のブランドになっていきました。
しかし、その後は他社様がステンレス包丁の製造にどんどん参入し、私どもはもともとが包丁メーカーではなかったため、知見や技術といったところでシェアが押され始めました。

そこから創業者様がステーキナイフからヒントを得て、オールステンレスで包丁をつくることを思いついたと伺いました。

鈴木様:この発想はすごいなと思いました。

本田様:思いつきそうでなかなか思いつかないですよね。

鈴木様:カトラリーメーカーという背景がなかったら、今のGLOBALは生まれなかったのかなと思います。弊社がもともと包丁を作っていたメーカーでしたらずっと木の柄でいって、世の中にオールステンレス包丁自体生まれなかったのかもしれないですね。

GLOBALは生まれたときから、機能性とデザイン性を兼ね備えた究極の完成形だった

柄のブラックドットのデザインが特徴でグッドデザイン賞も受賞したGLOBALの包丁

GLOBALのプロジェクトが立ち上がり、デザイナーに山田耕民氏を迎えられて、あのデザインが生まれたのですね。

鈴木様:山田耕民さんのデザインがなかったらここまでロングセラーにもならなかったでしょう。

本田様:デザインの力は大きいと思っています。

GLOBALの特徴的なハンドルのドットパターンは、滑り止めにもなるという機能を持っていますが、最初にデザインからきたものなのでしょうか。

本田様:最初から滑り止めにしようと思って作った訳ではなくて、どちらかというとドットのデザインが先行です。あちらを立てたらこちらも立った、というすごく恵まれた形で、結果として滑りにくい商品が生まれたという感じです。

世界から日本へ

GLOBALはまず世界で評判になりそこから徐々に日本へという、いわば逆輸入のような形で人気に火がついたとのことですが、どういったいきさつだったのでしょうか。

鈴木様:ブランドが立ち上がった当初は、国内向けの市場へセールスをかけていきました。ただ、当時は木柄の包丁が一般的でオールステンレスの包丁自体がすごく斬新なものでしたので、なかなか受け入れられなかった時代がありました。
その時に代理店から「日本がダメだったら海外へ持って行って反応を見てみては?」というお声がけがあり、ドイツのフランクフルトで開催している展示会に出展をしたところ、当時のヨーロッパのレストランのシェフや、著名な方々から非常に高い評価を受けまして、急速的に海外に市場が広まっていきました。
そこからしばらくGLOBALは海外をメインに輸出するという状況が続きました。その後、1990年代の半ばくらいに海外に商品を買い付けにこられた日本のバイヤーさんから、取り扱いたいという声を頂きました。そこから、少しずつ日本の百貨店さんに逆輸入という形で広まっていったという流れですね。
いまだに海外のブランドかなと思っている方も多いのではと思いますね。

繊細な切れ味とデザイン性。両面兼ね備わっていることが、GLOBALの人気の秘訣

これだけ海外で人気となった理由はどういった点だったのでしょうか。

鈴木様:GLOBALという日本の包丁が海外で受け入れられた背景には、当時は日本食ブームであったものの、日本料理用に適した繊細な切れ味の包丁が海外にはあまりない中、GLOBALの切れ味が評価されたことで急速に広まったということがあります。
またステンレス自体は錆びにくいですし、木柄と違って腐食することがないので非常に衛生的に使えることも大きかったです。
そしてデザイン性ですね。どちらかが際立っているのではなく、繊細な切れ味と衛生的いう機能性とデザインの良さの両方が兼ね備わったものだからこそ、これまでロングセラーを続けられたのではないかと思います。

海外ではアメリカや、スウェーデンを始めとした北欧でも非常に人気が高いと伺いました。

本田様:そうですね。その他には観光大国であるオーストラリアでも近年は人気が上がってきています。見た目が良いので特にオープンキッチンのレストランなど、見せながら使うところでの需要が多いようです。

鈴木様:鉄板焼きやお寿司屋さんですね。

海外の食文化にあわせて増えたラインナップは、いまや200種類を超える

オールステンレス包丁もだいぶ一般的になって参りましたが、そのパイオニアとして貴社ならではのこだわりや特長、取り組みなどあればお聞かせください。

鈴木様:GLOBALブランドは誕生から2023年に40周年、40年間売れ続けているロングセラー商品です。万能包丁、専門包丁問わずラインナップが非常に多いというところが大きな特長ですね。

本田様:当社の場合、製造数の7~8割くらいを輸出しており、国内で売っていない商品もたくさんあります。細かいものまで数え上げると、恐らく200を超える種類があります。

六本木直営店には食材に合わせた様々な種類の包丁が並ぶ

ラインナップがここまで豊富になったのはなぜですか。

鈴木様:海外の地域独自の食文化ごとの要望に応えて、専門包丁として形にしていった結果ですね。日本ではあまり流通していない食材専用の包丁などもあります。

本田様:例えば「Swedish fillet」というスウェーデンでよく食べられるサーモンを薄く削ぎ切りにするのに適した包丁や、スペインの生ハムを原木から切り出すための「Spanish Ham slicer」という包丁などもあります。
こういった商品は現地の代理店から「こういう包丁がほしい!」という声をいただいて作っています。

まさにグローバルですね。また、燕市は地場産業として長くステンレスを扱ってらっしゃると聞きました、そのような地域ならではのお話などはありますか。

鈴木様:当社も長くステンレスを扱ってきたため、研磨技術が非常に高く、製品づくりやサービスにも反映させています。例えば研ぎ直しというサービスがあります。研いで切れ味を回復させるということはもちろんですが、刀身から柄まで、包丁全体を研磨し、新品と変わらないような状態でお戻しをしています。オールステンレスという素材と研磨や刃付けなど、この地域の技が活かされた当社ならではのサービスと言えると思います。

「研ぎ直しサービス」は本当に長く商品を使って頂けるためのサービスですよね。ぜひ後ほどより詳しくお伺いします。

刃先の強度と切れ味が特長のハマグリ刃

GLOBALの特徴の一つとして、ハマグリ刃であることが挙げられますが、そのハマグリ刃の特長や、貴社の商品に取り入れるまでの背景を教えてください。

本田様:創業者が日本各地の刃物の産地をまわりながら、それぞれの地域の技術を学び、研究していたときに、ある刃物メーカーさんにこのハマグリ刃を教えてもらったそうです。刃先の強度を保ちつつ切れ味も良いところが、採用に至ったきっかけかなと思います。

GLOBALは丸みを帯びたハマグリ刃、GLOBAL-ISTは鋭角な刃と特徴が違う製品を展開していますが、その違いについて教えてください。

本田様:GLOBALのハマグリ刃と、GLOBAL-ISTのエッジがたった刃、どちらが優劣というのはつけていないです。切った時にどちらの切れ方がお客様にとってフィットするかで選んで頂いてます。例えばお刺身を角をピシッとたてて切りたい時は、エッジの立ったGLOBAL-ISTの方が良いと思います。

お客様も用途に分けて買いに来られる方も多いのでしょうか。

本田様:用途もありますし、ご自身で砥石を使って研がれるかといったところもポイントです。ハマグリ刃は先が少し丸みを帯びてカーブしているので、自分で同じ刃付けに戻すことが少し難しいんです。ですからご自身で研がれるような方には、エッジがたっていて戻しやすいGLOBAL-ISTの方をおすすめするということはあります。

ハマグリ刃は刃先の強度も保てる形とのことですが、ステンレス包丁の丈夫さについて詳しく教えてください。

本田様:単純な硬度で言いますと鋼の方が硬いですが、硬い分何かが当たったときにパリンッと欠けたり割れたりすることが、鋼には起きやすいです。
ステンレスには適度な、靭性、粘りといったものがあります。鋼材自体は業者さんに発注するのですが、工業用、製品化できるステンレスだけでも、含まれる素材や配合の違いで多くの種類があります。どの鋼材を採用し、どんな加工をするかで、耐久性や硬さ、切れ味など包丁の特長に繋がっていくので、メーカー各社が工夫をしています。GLOBALももちろん、ベストな鋼材を選定しています。

どの配合の鋼材を選ぶかによって各社のこだわりが出るのですね。

鈴木様:あとは刃付けの仕方によっても切れ味の耐久性は変わってきます。鋭くすればするほど切れるのですが、その分刃先が薄くなるので、耐久性がなくなってきます。例えば、魚の骨を切ったり、頭を落とすような使い方をする出刃包丁はやや鈍角にして耐久性を高める、切れ味が食感や味を左右する刺身包丁は薄く繊細な刃先にするなど、包丁の用途によって刃付けも変えています。

ステンレスだからこそ強度を高めることが大事なのかと思いましたが、もっと奥深い話ですね。

パイオニアとしてのこだわり

包丁のデザインはこれまで大きく変わっていないとのことでしたが、他の部分でここはアップデートされているといったことがあればお聞かせください。

鈴木様:やはり包丁ですので、切れ味を含めた耐久性とか使い勝手が良くなるように、鋼材の種類や工法、工程などの細かい改善を日々積み重ねています。いまある姿が完成形ということではなく、用途面や機能面で少しずつでも気づいた部分を改善して、より良い商品にしていこうという想いで動いています。

本田様:デザインについては開発した時点でもう完成されているのでそこは一切変えずに、アイコンとして育てていくだけという形です。
やはり包丁である以上、切れ味については機能面で無視できない一番大切なこととして、試験機を用いた検査なども行いながら高水準でいられるような努力は続けています。

200種類もあるとその全てに気を配ることは大変ではないですか。

本田様:種類が多いと色々な機械の調整も必要ですし、職人の技術も必要なので、エラーをなくし全て一定の水準でよいものを作るというのは一番難しいのかなと思います。
近年は一部機械に頼らざるを得ないところはあるのですが、それでもやはり人間の手でしか出来ないところもまだまだあります。若い職人たちも毎年どんどん入ってくるので、そういったところを彼らに継承できるように頑張っています。

鈴木様:特に近年は若い職人さんが増えていて、この仕事のために他県から移って来た人もいます。

本田様:デザインがかっこいいからという理由で、デザイン系志望の子が複数名入ってきたりもしています。商品企画をしてみたいなんて声も聞きました。

若い方が継承してくださるのは素晴らしいですね。開発されたときからデザイン性と機能性が揃っていた完成形であり、また未来まで繋げてくれるような商品ですね。

本田様:あまり時代を感じさせるデザインではないかと思いますし、性別や使う方の年齢も問わないと思うので、そういったところが、弊社が普遍的にやっていけている理由なのかなと思います。
2000年代頃までにはどうしてもプロ向けというか、そこまで安価な包丁でもないですし種類もたくさんあって、家庭で一般の主婦が使うものではないのかなという声も聞いていました。ただ、その一方でプロのシェフや有名人の方などが使っている姿を見て、憧れる人が増えた。そういう形で徐々に裾野が広がって、自分で使ってみて良かったから他の人にも薦めたいとか、プレゼントとしてお使いいただくという需要がありすそ野が広がっていったという印象ですね。
デザインの良さがあって、広告とか販促の露出ではなく口コミをメインに広く皆様に使ってもらえるようになっていったのかなと思っています。

鈴木様:どれだけよいものを作っていても知ってもらわないと意味がないので、近年は露出も増やすようにしています。

企業としての責任「研ぎ直しサービス」

先程からお話に出ている「研ぎ直しサービス」を始めた背景などを教えてください。

鈴木様:当社は包丁メーカーですので、お使いいただく中で研ぎ直しでのメンテナンスのサービスを提供させて頂くというのは、会社としての責任と位置づけています。お客様が長く使って頂くために、会社あげてのアフターケアというのは必須条件と思っており、そこには非常に力を入れてます。
価格に関しても返送料込みで1本1,000円からという価格設定でやらせていただいています。研ぎ直しのクオリティも切れ味の回復だけでなくて、全体を研磨したり、消えてしまったロゴは再印字するなど、購入した時と同じような状態にして返却するので、戻ってきた包丁を見て驚かれるケースが多いです。

こちらのサービスは長年やってらっしゃるのですか。

本田様:そうですね。当社の最初の包丁である文明銀丁を作り始めてから、ずっと研ぎ直しサービスはやっています。しかも当初は無料でやっていたようです。さすがにどんな状態でも全て無料で、というわけにはいかなくなり、お代をいただくようになりましたが。
ですので、創業者は故人ですが、生きていたら「研ぎ直しにお金を取るな」と言うかもしれないくらい、顧客サービスには昔から熱い想いがあったようです。
職人が一本一本手作りで作っているので、もったいないというのもありますし、きちんと魂込めて作ったものなので、なるべく長く使って頂きたいという想いはありますね。

鈴木様:研ぎ直しは、送ってもらった状態にあわせて一本一本その包丁にあった直し作業をしています。
研ぎ直しサービスはできるだけ多くのお客様に利用して頂きたいなとは個人的にも思います。切れ味は少しずつ落ちていくものなので、長く使っている方は自分が意識しないでも今の切れ味が普通の切れ味なのかなと感じていると思うんです。一回研ぎ直しに出せばまた新品のような切れ味への感動が実感できるといったところは、ぜひ知って頂きたいです。

本社工場で一本一本、手作業で刃先の状態を見ながら丁寧に研ぎ直しを対応

本田様:いま一カ月で数百本から千本に近いような数のご依頼を頂いてますが、さらに多くの皆様に使って頂きたいなと思っていて、もっと使いやすい方法や認知の拡大という部分を探っているところです。

数百から千本という依頼数も十分にすごい数字です。

本田様:そうですね。毎日数十件お申込みがあります。包丁の研ぎ直しには技術が必要なので、腕の良い職人さんが選ばれています。
なかには30代の若い職人さんもいて、とても頼もしい存在です。

貴社にとっては宝のように大事にされたい存在ですね。

お客様との対話で生まれる新たな商品

先ほどご自身が使っていて良いと思ったのでプレゼントに、といったお話がありました。プレゼント用としては名入れもやっていらっしゃるとか。

本田様:そうなんです。公式オンラインストアと六本木直営店だけ行っているサービスなのですが、名前を入れると自分だけの特別な包丁に感じますし、例えば「Happy Wedding」のようにメッセージを入れることで、プレゼントとしても選びやすいのかなと思います。

なるほど。新しいラインナップのGLOBAL CAMPも男性へのプレゼントによさそうですね。

キャンプニーズに合わせた新ライン「GLOBAL CAMP」

本田様:こちらは特に男性ファンに向けたという訳ではないのですが、革の鞘をつけたり、ブランドイメージとして黒やモノトーンなどシックなイメージで作っていますので、結果として男性の方から選ばれていますね。

新発売のペティーナイフセットは、お客様のお声を聞いて発売されたと伺いましたが、どのような経緯だったのでしょうか。

本田様:弊社のアイコンのように扱っているGS-3というペティーナイフがあるのですが、こちらに小さな簡易シャープナーを付けてプレゼントに購入したいという声が集まってきて商品化したものです。お客様から、このような組み合わせが欲しいとか、こんな用途にはどちらがおすすめかみたいなお声を色々頂いて、新たな商品を作るということは日ごろから意識しています。
お客様のなかには包丁のファンとして、我々が太刀打ちできないくらいの知識や熱い想い、こだわりをお持ちの方々がいらっしゃるので、そういった皆様と日々対峙をすることでこちらも勉強になります。

一個人様の想いを企業が汲み取ってくださるのであれば、お客様としても伝え甲斐がありますよね。本日は貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

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