知識ゼロから始まった「はちみつ専門店」の歩み

福岡県八女市で小さなインターネットショップからスタートした「かの蜂」。養蜂家である叔父からの依頼をきっかけに、まったく知識のなかった蜂蜜ビジネスに飛び込んだところからすべては始まりました。最初は山積みの在庫と売れない日々に苦労しましたが、お客様の喜びを第一に考える姿勢と、差別化戦略で成長を遂げています。品質管理の徹底やギフト商品の充実など、独自の取り組みを続ける代表取締役の平田智子様にお話を伺いました。
蜂の習性を利用した花ごとの商品展開
ふるさと納税の返礼品で日本一のシェアを獲得
事業内容について
平田様:主な事業は蜂蜜の製造、販売です。製造工場で瓶詰め、製品化を行い、売上の8〜9割はインターネットを通じたものです。販売チャネルは自社サイト、各種モール、Amazonです。また、ふるさと納税の返礼品としての蜂蜜販売も急成長しており、この分野では日本一のシェアを獲得しています。
花の種類を分けた商品で差別化
かの蜂の特徴
平田様:多くのメーカーが花の特徴を活かしきれていない中、当社では花の種類を細かく分けて商品化しています。蜂蜜業界では創業50年、100年というのが当たり前の世界ですが、当社は20〜30年の販売歴でまだ新参者です。そうした環境で差別化を図るため、多品種戦略を展開しています。
当社では養蜂家の知識と蜂の習性を利用して花ごとに商品を展開し、花本来の味がしないものや味が混ざっていると判断したものは販売を見送るなど、品質にもこだわっています。また、和風の特色を出した商品展開も当社ならではの強みです。

自社サイトで欲しいものがすべて見つかる環境づくり
多品種を提供する理由
平田様:お客様の買い物の利便性を重視し「自社サイトで欲しいものがすべて見つかる環境づくり」を心がけています。人はネットサーフィンといえども手早く済ませたいものです。1つのサイトで全ての商品を閲覧できれば、それに越したことはありません。そのため当社では「かの蜂に来れば欲しい蜂蜜が見つかる」とお客様に感じてもらい、当社のサイトだけで完結できるよう商品の品揃えを充実させています。
現在、商品数は500種類を軽く超え、花の種類だけでも何十種類にもなります。容器の大きさも分けるなど、品揃えの多様性を追求しています。

栄養素を損なわないための徹底した温度管理
品質管理で特に気を配っていること
平田様:蜂蜜は一般的に50~60度を超えると栄養が破壊されてしまうため、美味しさはもちろん、栄養素を損なわないよう温度管理を徹底しています。
蜂蜜は時間が経つと自然に結晶化して固まりますが、これは品質の問題ではなく、自然な現象です。お客様には使いやすい状態でお届けすることを大切にしているため、結晶化した蜂蜜は45度以下の低温でゆっくり溶かしているんです。
また、製品在庫は専用の温度管理室で保管し、花の種類によって保管方法を変えています。意外なことに、結晶化は冬の寒さよりも、春の大きな温度差がある時期に起こりやすいのです。結晶化しやすいものは年間を通して25度で管理し、温度変化を最小限に抑えています。
「潰れるかもしれない」危機を好機に変えた大胆な決断
知識ゼロから始まった蜂蜜販売
インターネット販売を始めたきっかけ
平田様:創業時はコインパーキングの経営と防犯カメラの販売を行っていたので、インターネット販売のノウハウはすでに得ていました。ある時、養蜂を営んでいた叔父からホームページ制作を依頼されたのですが、それが実は販売の依頼だったということがきっかけです。
叔父はすでに蜂蜜を大量に収穫し、在庫が山積み。私は当時、蜂蜜の知識がほとんどなく、どのように蜂蜜を売ればいいのか途方に暮れました。

手作業の瓶詰めからスタート
初期の商品づくりと販売の苦悩
平田様:まずはスーパーでいくつか蜂蜜を買ってきて研究しました。そこからインターネットで販売するために、コピー機でラベルを印刷して文具のノリで貼り、スプーンで瓶詰めするという手作業からのスタートでした。
しかし、当時はまだネットショッピングが一般的ではなかった時代。ネットオークションで週に1本落札されるかどうかという状況で、ほとんど売れませんでした。山積みの在庫と増えていく請求書に会社が潰れるのではと危機感を持ち、本気で取り組み始めたんです。
ギフト商品という独自のポジションを獲得
「かの蜂」ならではの戦略
平田様:業界ではギフト商品が非常に少なく、蜂蜜をギフト商品にするというイメージ自体がありませんでした。そこで当社は「自分ではなかなか手が出ない価格でも、贈り物としてもらうと喜ばれる、特に国産の高品質蜂蜜はギフトとして最適」という点に着目し、ギフト商品に特化しました。競合が少ないこの分野で、当社は大きな強みを発揮しています。
最初からギフト商品に力を入れ、1,000円台〜1万円台まで幅広い価格帯を揃えました。少しずつ商品を増やしていった結果、蜂蜜ギフトのインターネット販売では多くのお客様に選ばれる存在となりました。
蜂蜜かけ放題の夢が叶うカフェ「かの蜂ハニーガーデン」

地域の人に来店してもらい、蜂蜜の良さを知ってほしい
「かの蜂ハニーガーデン」をオープンした目的
平田様:カフェ「かの蜂ハニーガーデン」は地元の方に喜んでもらいながら、蜂蜜の良さを知ってもらうきっかけづくりを目的として、2023年5月、本店と同じ福岡県八女市にオープンしました。気軽に来店して飲食を楽しんでもらうことで、「美味しかったから買おう」という自然な購買行動につながっていると感じています。
オープン翌月にはテレビの取材がくるほどの人気店に
オープン後の反響
平田様: 飲食業は未経験だったため、大々的な告知は控え、サイレントオープンという形で始めました。取引先も招かず招待状も送らず、こっそりとオープンしたのですが、驚くことにSNSであっという間に広まり、オープン翌月にはテレビの取材が来るほどに。インフルエンサーの方々も自然と訪れ、宣伝費をかけずに多くの人に知っていただくことができました。カフェを通じて蜂蜜の良さを知ってもらうという想いが、自然と多くの方に広がったと感じています。

蜂蜜を「好きなだけかけてみたい」という体験ができるカフェ
カフェ「かの蜂ハニーガーデン」コンセプトや特徴
平田様: カフェのコンセプトは「蜂蜜ありきでメニューを考える」ことです。ランチは、はちみつ専門店としての特色が薄れてしまうと考え、蜂蜜を活かしたスイーツやドリンクに特化しています。飲み物や液状のメニューには必ず蜂蜜を使用し、健康的で美味しいことを実感してもらえるよう工夫しています。
また蜂蜜は高級というイメージがありますが、「蜂蜜を好きなだけかけてみたい」という体験が気軽にできるよう、かけ放題にしているんです。
カフェ自体での利益追求ではなく、蜂蜜の普及活動の一環と位置づけています。「蜂蜜をアイスクリームにかけても美味しい」「これなら自分でも作れるかも」と感じてもらうのが目的です。レシピについても隠すことなく、お客様に聞かれればお答えしています。


地元の良質な素材を活かした豊富なメニュー
提供している食材へのこだわり
平田様:提供しているフルーツは、地場産品にこだわっていますね。当店がある地域はフルーツの隠れた一大産地で、地元の良質な素材を活かしています。また、スムージーなどには氷を使わず、地元のフルーツを急速冷凍して使用しています。
すべてはお客様のために
お客様が喜んでくれるからこそ商売が成り立つ
大切にしていること
平田様:すべてはお客様のためです。お客様が喜んでくださってこそ商売が成り立つので、「早く届いて嬉しい」「開けた時に綺麗で嬉しい」「食べて美味しくて嬉しい」など、喜びをお客様に感じていただけるよう心がけています。
当社のコンセプトは「本当に美味しい蜂蜜、食べたことありますか?」です。このコンセプトのもと、美味しいものをより早く、より安く、より丁寧にお届けすることを大切にしています。
重要なのは実行する意志であり、物理的に不可能でないアドバイスはすぐに取り入れる
会社運営で大切にしている考え方
平田様:良いと思ったアイデアは、まず試してみる姿勢を大切にしています。当社のネットショップがここまで発展できたのは、多くの取引先など、様々な方から教えていただいたことを実行に移してきた結果です。「やってみてダメならやめればいい」という柔軟さと「失敗からも学べる」という前向きな考えで運営しています。
重要なのは実行する意志であり、物理的に不可能でない限り、良いアドバイスはすぐに取り入れてきました。「すべてはお客様のために」という姿勢で、蜂蜜本来の美味しさと品質を守りながら、顧客目線での商品開発と改善に努めてきました。小さな一歩から始まった当社も、今では多くの方に愛される日本有数の蜂蜜ブランドに成長することができました。これからもお客様の声に耳を傾け、喜びと感動をお届けし続けます。
