日本一の昆布の産地から、想いと共に届ける昆布の魅力

2005年にスタートした昆布専門のECサイト「昆布村」。2014年に能戸フーズ株式会社として新たなスタートを切るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。しかし、お客様からの「おいしい」という言葉を励みに、北海道産昆布の魅力を全国に届け続けています。心のこもった丁寧な商品づくりと、お客様1人ひとりとの絆を大切にする独自の取り組みについて、代表取締役の能戸圭恵(たまえ)様にお話を伺いました。
パソコン1台から始まった昆布村の挑戦
ECサイト立ち上げのきっかけを教えてください。
能戸様:夫の実家が函館で水産加工会社を営んでいたので、何かお手伝いがしたいと思っていました。でも当時、夫は築地で働いており、私たちは東京で暮らしていたため、直接的なサポートができない状況だったんです。そこで、ECサイトであれば東京に住みながらでも会社の力になれるのではと考えたのがきっかけです。
2005年にその思いを実現しようと動き始めたのですが、まずはパソコンを購入するところからスタートしました。パソコン教室に通ったり、本を購入しHTMLやCSSを1つひとつ勉強したりしながら少しずつ準備を進めていき、なんとかECサイトを立ち上げました。
ECサイトからの最初の注文はどのようなものでしたか?
能戸様:「がごめ昆布きざみ」という商品でした。サイトを立ち上げてから1、2ヶ月程でいただいた注文です。
夜遅くパソコンを開いて、ふと受注台帳を確認した時のことは今でも鮮明に覚えています。「え!本当に注文が入ってる!」と、思わず声を上げそうになったのを必死に押さえました。夫も子どもも寝ている深夜だったので、喜びを一人で噛み締めていました。

ECサイト立ち上げ当初、不安や課題はありましたか?
能戸様:不安はありませんでしたが、東京に住みながら北海道函館市にある会社の商品を販売する形だったので、現地で発送作業する方との意思疎通が大変でした。商品に対する想いやこだわりがあるので、梱包方法やテープの貼り方まで毎日電話で1つひとつ説明していて、遠隔での指示は本当に難しかったですね。
また長女が小さく、そのあと次女も生まれたため、仕事に時間を割けないもどかしさを常に感じていました。子どもが寝たあとにパソコンに向かう日々で…。昆布村の運営にもっと力を入れたい気持ちはありましたが、子育てとの両立で思うようにいかず、そのジレンマに悩んでいました。
その後、状況はどのように変化していきましたか?
能戸様:その後、函館に移り住むことになり、夫の実家の会社で昆布村の運営を続けていました。しかし、様々な事情により会社を閉めることになりました。それでも、昆布村には多くのお客様がついてくださっていたので、2014年に能戸フーズ株式会社として新たにスタートを切ることにしたんです。
一番大変だった頃のことを教えていただけますか?
能戸様:一番大変だった時期は、2014年の創業初期ですね。会社を設立してからは、自分の名前で事業を行うという大きな責任も加わり、1つでも間違えれば会社が潰れてしまうかもしれないというプレッシャーと10年ほど向き合ってきました。
仕事だけでなく、子育てや家事など、様々な役割をこなさなければならず、とても慌ただしい日々でした。子育て中は子どもが寝ている時間を使って仕事をしていたので、本当に睡魔との戦いでしたね。今思えば「やらなければ」「母親として当然」と考えすぎると苦しくなるので、完璧を求めすぎずに周りを頼ることが大切だったなと感じています。
現在は少し気持ちの余裕も生まれ、仕事と自分の人生について考えられるようになりました。ライフワークバランスを意識しながら、仕事も楽しみながらできるようになってきています。
そんな大変な時期を乗り越えられた原動力は何だったのでしょうか?
能戸様:素晴らしい昆布をはじめとする北海道のおいしい食材を全国の皆さんにお届けして喜んでもらうことが、大きな原動力でした。お客様から「おいしい」という言葉をいただけることが、何よりの励みになっています。
昆布は健康にも良く、料理の基本となる大切な食材です。より多くの方に昆布の良さを知っていただき、毎日の食卓に取り入れていただけることが、私たちの喜びとなっています。

今までにないものを目指して挑んだ商品開発
創業後どのようなことを意識して商品開発をされたのですか?
能戸様:2014年に会社を立ち上げた際、単に昆布を販売するだけでは他社との価格競争に巻き込まれてしまうと考えました。そこで、今までにない商品、いわゆるブルーオーシャンを目指して模索を始めました。
具体的にどのような商品が生まれたのでしょうか?
その中で生まれたのが「ナツコ」というナッツと昆布を組み合わせた商品です。この商品開発には、私自身の昆布との出会いが大きく影響しています。

実は結婚前、昆布の価値を全く知らなかったのですが、函館に嫁いでから漁師さんから昆布をいただいたり、家にある昆布を食べたりする中で、その自然な旨味に感動したんです。人工的な味付けではない、昆布本来の味。和食を長年支えてきた昆布の出汁の素晴らしさを実感しました。
さらに、当社がある尾札部町は北海道で唯一、献上昆布に選ばれた浜なんです。親潮と黒潮が混ざり合う栄養豊富な海に恵まれ、かつては朝廷や将軍家にも納められるほどの最高品質の昆布が育つ土地として知られています。わずか7キロほどしかない小さな場所ですが、この地域は特別な場所なんです。
そんな中、女性スタッフから「今、ナッツが健康食品として注目されている」という情報をもらい、試しに組み合わせてみたところ、とてもおいしかったんです。そこに日本のスーパーフードで、かつ献上昆布に選ばれた浜で採れた昆布を組み合わせれば、より健康志向の方に喜ばれる商品になると確信しました。
既存商品の改良なども行われているそうですね。
能戸様:はい、例えば「がごめ昆布しょうゆ」は当初から多くのお客様にご愛用いただいていた商品でしたが、函館の常連のお客様から「もっとこだわりやオリジナル性を出した方がいい」というアドバイスをいただきました。そのご意見をきっかけに、原料や製法を見直し、北海道産丸大豆を使用することで独特のまろやかさを実現しました。
さらに、昆布は水揚げ直後は塩味が強く、ミネラル分が強すぎて味が辛くなってしまうため、1年ほど熟成させることで雑味を取り除き、まろやかな味わいに仕上げています。醤油屋さんと一緒にレシピを考え「熟成がごめ昆布しょうゆ」として新たに生まれ変わりました。

アイデアのヒントはお客様やスタッフの声
新商品のアイデアはどのように生まれるのでしょうか?
能戸様:特に意識はしていないんです。新しい商品開発のヒントは、お客様や周りのスタッフの声に耳を傾けることで自然と集まってきます。特にお客様の声は私たちの商品開発の原点とも言えます。
お客様からはどのような声が寄せられるのでしょうか?
能戸様:お客様から「こういう商品が欲しい」「こんな商品を作ってみては?」といった具体的な提案をいただくことが多いんです。ただ、こういった声は親しくお付き合いのあるお客様でないと、なかなかいただけない貴重な意見だと認識しています。
そういった貴重な意見はどのように集めているのでしょうか?
能戸様:以前は対面販売時に直接お話を伺ったり、取引先の店舗で試食会を開催して、お客様の健康法や昆布の食べ方についての情報を集めたりしていました。
現在は電話やアンケートなどでお客様の声を集めていますが、まだまだ足りないと感じています。私たちからもっと積極的にお客様に近づいていかないと、より良い商品やサービスは生まれないと思うんです。多くのお客様の声を聞くために、様々な機会を設けるよう心がけています。
お客様の声が商品づくりに活かされているんですね。
能戸様:そうですね。「この醤油を使ったら他の醤油が使えなくなった」というお客様からの嬉しい生の声もいただいています。そういった声をサイトでも紹介することで、商品の良さがより伝わりやすくなると考えています。やはりお客様の声こそが商品の本当の評価だと思うので、こうした声は私たちの成長に欠かせないものです。より良い商品づくりやサービスの向上のために、今後もお客様との接点を増やしていきたいと考えています。
人の温もりや空気感も一緒に届ける故郷のような存在に
ECサイトならではの工夫や、大切にされていることを教えていただけますか?
能戸様:商品がおいしく安全で、すぐに届くというのは、今の時代では当たり前のことだと考えています。だからこそ、開封時の体験を大切にしています。丁寧な梱包はもちろん、誕生日には私たちの顔写真入りの手書きメッセージカードを同封するなど、1つひとつの出荷に想いを込めています。「大切に扱われている」という気持ちや人の温もりを感じてほしいんです。
その想いを形にすることで、遠く離れた函館の空気感までも感じてほしいと思っています。実際に、地方にお住まいのお客様から「懐かしい」「地元を思い出した」という声をいただくことがあります。昆布村に「故郷」のような親しみを持っていただき、単なるECサイトではない、人と人とのつながりを感じられる存在であり続けたいです。


私たちの強みは人の手による細やかな対応
ECサイトは効率化が特徴だと思いますが、あえてきめ細やかな対応を大切にされているそうですね。どのようにバランスを取っているのでしょうか?
能戸様:受注処理など、システム的な部分は積極的に効率化していきたいですね。RPAやAIの導入も検討していますが、現時点ではまだコスト面で課題があります。ただ、働き手が限られている中で、こうした業務処理の自動化は必要不可欠だと感じています。
一方でこだわりを持って取り組んでいる部分は、お客様とのコミュニケーションです。商品以外の部分で「嬉しい」と感じていただけること、例えば丁寧な対応や温かみのある接客、きれいな梱包など、人の手による細やかな対応は決して省きません。
昆布村の強みはここにあると考えています。単に商品を販売するだけなら、他の昆布屋さんとの価格競争に巻き込まれてしまいます。しかし、こういったきめ細やかなサービスは簡単には真似できません。

昆布村を育ててくださったお客様への感謝
最後に、今後の展望をお聞かせください。
能戸様:まだまだECサイトとしてできることがたくさんあると感じています。売上や利益率も、もちろん伸ばしていきたいです。ただし、単に商品を届けるだけのECサイトにはしたくありません。スタッフの想いや、昆布漁師の方々の苦労、昆布そのものの良さなど、商品以外の価値も一緒にお届けできたらと思います。お客様との関係をより深めるために、オフ会やイベントの開催も検討しています。全国のお客様に直接会いに行くような取り組みもしていきたいですね。
昆布村を大切に育ててくださっているお客様への感謝の気持ちを忘れず、これからも一歩一歩、着実に歩んでいきたいと考えています。

【編集後記】
インタビュー後、SNSを使ったライブ配信に初挑戦。昆布村を多くの方に知っていただくために、商品紹介をしたり、寄せられた質問にその場でお応えしたり…。「緊張する!」とおっしゃっていましたが、終始笑顔でお客様との交流を楽しまれていました。

