株式会社榮太樓總本鋪様

和菓子に込めるお客様への想いと心の豊かさへの挑戦

取締役副社長 細田真也様

1818年の創業以来、200年以上にわたり日本橋で和菓子の製造販売を続けてきた株式会社榮太樓總本鋪。伝統を守りながらも常に新しいことに挑戦し続ける姿勢は、まさに「江戸商人」の精神そのものです。今回、細田真也副社長にお話を伺い、お客様の心を豊かにしたいという熱い想いと、和菓子に対する深い愛情に触れることができました。

200年の歴史の中で変わらないもの、変わっていくもの

榮太樓總本鋪様の歴史について教えてください。

細田様:榮太樓總本鋪は1818年に創業し、今年で206年目を迎えました。日本橋は1603年に徳川家康が江戸の街を作って以来、商業の中心地として栄えてきました。今でも多くの老舗がこの地で商業を続けています。その中で榮太樓は、日本橋で200年以上にわたり「江戸商人」として事業を続けている企業の1つです。

長い歴史の中で、どのように伝統を守りながら新しい取り組みを行っているのでしょうか。

細田様:榮太樓では、変えてはいけないものが“2つ”あります。それは、梅ぼ志飴の作り方と、名代金鍔(きんつば)の味です。この2つは創業以来の伝統を守り続けています。

江戸時代から変わらぬ製法で作り続けている名代金鍔(なだいきんつば)

一方で、新しい商品開発にも力を入れています。年間で約300種類の商品を展開しており、定番商品から季節商品まで幅広くラインナップしています。新商品のアイデアは、お客様の声や市場トレンド、百貨店の店舗スタッフとの会話などから生まれています。「今、こういうものが美味しそう」「うちならもっと美味しく作れるのでは」といったアイデアを大切にし、積極的に新商品開発に取り組んでいます。

300種類もの商品展開はすごいですね。社員の方から商品開発のアイデアが上がってくる仕組みはあるのでしょうか。

細田様:約3年前から「横断会議」を実施しています。この会議の特徴は、役員レベルは参加せず、部長クラス以下の社員が中心となって運営している点です。役員は参加できないので、私も出席できません。

この取り組みによって、現場の声をより直接的に聞くことができます。従業員からの意見や提案を積極的に取り入れ、現場の声を大切にしています。これからも、現場からもっと多くの意見が上がってくることを期待しています。

お客様と榮太樓を結ぶ心の豊かさへの挑戦

長い歴史がある中でお客様との接し方は変化したのでしょうか。

細田様:お客様との接し方は、昔から現在まで変わっていません。ただし、2018年からは「心の豊かさに挑戦する」という基本理念を掲げ、これをお客様との関わり方の新たな指針としています。

お客様への接し方にも繋がっている「心の豊かさに挑戦する」とはどのようなことか具体的に教えてください。

細田様:私たちが考える「心の豊かさ」とは、お互いを思いやる気持ちです。例えば、同じ原材料、同じレシピでも、作り手によって味が変わるのは、ほんのちょっとした火の入れ方や仕上げ方の違いです。それは目に見えず、数値化もできませんが、作り手の心の豊かさが生み出す大切な違いだと考えています。

こうした小さな気づきや思いやりの積み重ねが製造から連鎖して、最終的にお客様の心を豊かにする和菓子に繋がります。これを実現するのは簡単ではありません。だからこそ、私たちは常に「挑戦」し続けています。

心の豊かさは思いやりの積み重ねなのですね。「心の豊かさ」は、実際の商品にも反映されているのでしょうか。

細田様:和菓子には芸術のような特別な価値があると考えています。和菓子は単に空腹を満たすだけでなく、季節や歳時と結びつき、そこに込められた意味や想いを伝える媒体となります。

例えば、梅ぼ志飴の味は世間一般的にはべっこう飴の味です。ではなぜ榮太樓ではないといけないのか。それは榮太樓の飴をなめると甘味だけでなく、懐かしい思い出が呼び起こされて「心が豊かになる」方がいらっしゃるからなんです。子どもの頃に祖父母が丸い缶に入れて榮太樓の飴を持ってきてくれた、そんな温かい思い出がこの飴の味と一緒によみがえる方もいます。

榮太樓が目指す「心の豊かさ」とは、まさにこのような和菓子を通じて人々の思い出や記憶を味で伝承し、世代を超えて愛され続けることです。和菓子を通じて、その味わいが新たな思い出となり、さらに次の世代へと受け継がれていくこと。このように、私たちの商品には理念が深く反映されています。

お客様の人生に寄り添う瞬間

お客様の声で最も印象に残ったお話を聞かせてください。

細田様:お客様からいただいたお手紙は社内で共有しているのですが、中でも病床のお婆様についてのお手紙をいただいたことが、今でも心に残っています。食事が全くできない状態だったお婆様に、医師が梅ぼ志飴なら大丈夫だと許可を出しました。ご家族が急いで飴を買いに来られ、お婆様に溶かして飲ませてあげたそうです。お婆様は「これはお菓子だね」と言って喜んで召し上がられました。榮太樓の飴は砂糖と水飴だけで作られており、添加物が入っていないので安全だと医師も理解を示してくださったとのことでした。

この話は、お客様の人生の重要な瞬間に寄り添えているのではないかと感じたエピソードです。

和菓子を通じた社会貢献

和菓子を通じて社会貢献活動も行っていると聞きました。具体的な取り組みを教えてください。

細田様:「和菓子で社会貢献をしていきたい」という強い想いも私たちのミッションの1つで、SDGsの理念も取り入れながら、様々な取り組みを行っています。例えば、フードシェアリングサービス「TABETE」を通じて、食品ロス削減に取り組んでいます。コロナ禍に百貨店で販売できない商品のためのECサイトも立ち上げました。

また、子ども食堂への支援も行っており、お汁粉などを提供しています。これは単なる食事支援だけでなく、和菓子を通じて子どもたちに日本の文化や季節を感じてもらいたいという思いも込めています。

このような活動は、私たちの理念である「心の豊かさに挑戦する」ことにも繋がっています。製造から販売まで多くの従業員の努力が込められた商品を廃棄するのではなく、世の中のために活用することが正しい選択だと考えています。

「心の豊かさに挑戦する」ことを信念に、社会貢献をしていきたいと語る細田様

今後の展望は海外展開とIT化

海外展開についてはどのようにお考えですか。

細田様:和菓子を世界に広めたいと強く想っていて、2030年までに世界の10人に1人は「Wagashi」という言葉を聞いたことがある世界を作りたいと考えています。
その目標に向けて海外イベントに積極的に参加し、多くの人に和菓子の魅力を直接伝える活動を行っています。将来的には、海外の人々が日本を思い浮かべた時に和菓子も日本の一部としてイメージしてもらえるようになることを目指しています。

海外展開について課題はありますか。

細田様:あんこや和菓子の魅力を正しく伝え、実際に味わってもらう機会を増やすことです。海外の方にとって、あんこはまだまだ馴染みのない食べ物です。説明すると「豆が甘い?」と驚かれます。でも、実際に食べてもらうと「美味しい」と言ってくださる方が多いです。和菓子の魅力を言葉で説明するだけでなく、“体験”してもらうことで魅力を正しく伝えられると感じています。

また、ひな祭りや子どもの日のお菓子には“子どもの健やかな成長を願う親の想い”が込められている。そういった文化的な側面も、もっと世界に伝えていきたいです。

海外展開以外にも、今後の展望があれば聞かせてください。

細田様:2026年に日本橋の本店が再開発のため取り壊された後、新しい店舗ができる予定です。これは個人的な夢なのですが、新しい店舗では最新技術を活用しながらも、お店に入った瞬間に江戸時代にタイムスリップできるような空間を作りたいと考えています。例えばスマートフォンをかざすと、バーチャルリアリティの中で江戸時代の物語が展開されるような、未来の技術で江戸の世界を体験できる店舗です。

私たちは江戸っ子の精神を受け継ぎ、新しいものに積極的に挑戦する姿勢を大切にしています。時代の流れに抵抗するのではなく、先人たちの知恵を活かしながら、新技術をうまく取り入れ、和菓子づくりに活かしていきたいです。

「生涯働きたい榮太樓」を目指すことでお客様に幸せを届けられる

事業が発展していく中で、最も重要なことはどんなことでしょうか。

細田様:当社はビジョンとして「生涯働きたい榮太樓を作る」ことを掲げています。1つの会社で一生働くという考え方は時代遅れかもしれません。しかし私たちは、従業員が「生涯働きたい」と思える環境を創出することが、最高品質の和菓子を作り、お客様に幸せを届ける唯一の方法だと考えています。従業員が心豊かに働ける環境があってこそ、素晴らしい商品を生み出し、それを最高の形でお客様にお届けすることができると考えています。

最後に、和菓子に込める想いを教えてください。

細田様:私たちが最も大切にしているのは、「本当に美味しくて、安心安全」な和菓子を作ることです。お客様に「榮太樓の和菓子は美味しくて健康的だ」と思っていただけるよう、安心安全な商品作りにこだわり続けています。
なるべく国産の原材料を使用し、生産者の顔が見える原材料の調達を心がけています。イチゴやマンゴーなど、どの原材料も最高品質のものを厳選しています。これからも美味しさと健康、安心安全を追求し続け、皆様に愛される榮太樓であり続けたいと思います。

左:Eストアー 石川 右:榮太樓總本鋪 細田様
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