製販一貫の強みを活かした米菓の可能性

1902年の創業以来、120年以上にわたり米菓の伝統を守り続けるとよす株式会社。もともと身近なおやつだったあられやおかきを高級ギフトへと昇華させるなど、時代の変化に合わせた革新的なチャレンジを続けてきました。製造から販売まで一貫して手掛ける同社は、百貨店やスーパーマーケットでの販売を中心としながらも、13年前にECサイトをスタート。昨年は会員数が約1万人増加するなど、オンライン販売も大きく成長しています。今回は、伝統を守りながらもECやSNSを活用した販売戦略について、営業部 営業企画課 課長の松本孝平様にお話を伺いました。
創業者の想いを受け継ぎ、革新と成長を続ける
米菓で様々な思い入れを提供できる会社でいたい
会社概要について
松本様:当社は1902年、明治時代から米菓業に勤めており、あられを中心とした米菓の製造から販売まで一貫して行っている企業です。「米で人のくらしを豊かにしたい」という経営理念のもと、米菓で様々な思い入れを提供できる会社でいたいと考えています。 販売については百貨店やモール、最近は拡大しているスーパーマーケットの銘店コーナーなどで展開しています。
作ったものを自分たちの手でお客様にお届けしたい
長い歴史の中で伝統として大切にしていること
松本様:米菓づくりは創業当時、すべて分業だったと伺っております。餅生地屋さんが餅生地を作り、別の店が焼き、さらに別の店が包装するというように、米菓づくりの工程がそれぞれ異なる業者によって分担されていました。
創業時は餅生地を仕入れて焼いていましたが、作ったものを直接お客様にお届けするために、製販一貫体制を目指したところから、現在に至ります。
現在はネット通販も展開していますが、自分たちで作った商品をお客様に直接お届けするという想いを大切にしていきたいと考えています。お客様との直接的なつながりを大切にすることが、当社の伝統の核心なのです。

時代の変化に対応しながらも、基本をしっかり守る
伝統と革新のバランス
松本様:当社は製販一貫体制をベースにしながら、「安心安全」はもちろん、伝統を守りながらも新しいことを取り入れ、「おいしい!」を提供し、ブランドイメージの維持向上に努めています。
基本的な価値観を守りながらも、チャレンジ精神を発揮して様々な革新に挑戦してきました。米菓をギフトジャンルに昇華させた高級米菓への取り組みや、チョコレートとあられを組み合わせた商品開発、直近では柿の種専門店という形で専門性を打ち出すなど、新しい発想が当社の成長を支えています。
時代の変化に対応しながらも基本をしっかり守ることが、結果として伝統を守ることになり「この会社には伝統があるね」とお客様に認識していただける要因になっていると考えています。
「あられ」を極め、多彩な味わいを1つの袋に
「あられ」へのこだわり
商品の特徴や魅力
松本様:当社は「あられ」と言われる小粒の米菓の製造に強みを持っています。食感や味付けにこだわり、お客様の嗜好にあったものを提供させていただいています。
昔はひとつの袋に1種類だけのものが主流でしたが、試行錯誤を繰り返し、あられをミックスしてお客様にひと袋で様々な味を楽しんでいただけるようにしました。最近は1つの袋で7種類のあられが楽しめる商品が人気です。一度に色々な味が楽しめるという点や、驚きと新鮮さを提供することを心がけています。

「これどこで買えますか?」お客様の声から生まれたECサイト
お客様の質問から約13年前に始まったEC運営
ECサイトをスタートした経緯
松本様:きっかけは「かきたねキッチン」ブランド立ち上げです。当時、限られた店舗でしか販売していなかったのですが、量産体制が整ってきた際に催事などで「これどこで買えますか?」というお問い合わせが多かったんです。そこで「ECサイトが必要ではないか」という提案があり、約13年前にショップサーブでECサイトをスタートしました。

対面販売との違いはお客様の顔が見えないこと
ECサイト運営で難しさを感じる点
松本様:やはりお客様の顔が見えないことが最も難しい点です。対面販売をしてきた身としては、見えないお客様からの問い合わせにどう返したらいいのか、初めは苦労しました。
実店舗は百貨店で販売していることもあり、言葉遣いが非常に丁寧です。しかし、それを文章にすると何を伝えたいのかわからなくなることもあるので、ECでは簡潔に要件を伝えるという点を意識しています。
顧客コミュニケーションにおける対応の工夫
お客様からの問い合わせや評価への対応
松本様:お電話での問い合わせが多いのが特徴です。「注文したいのですが」という方や「注文したんですけど、5個追加できますか」といった問い合わせもあります。対応できるサービスであれば、できるだけお客様に寄り添った対応を心がけています。
味に対してのお褒めの言葉もいただきますが、梱包や発送に関するものも多いです。「丁寧に梱包されていました」「早く届きました」といったお声をいただくと、発送現場への感謝の気持ちが湧きます。米菓は割れものなので、しっかりと固定して梱包するよう気をつけています。

ブランドだけでなく、商品の味付けも年齢層によって好みが分かれる
ブランドや年齢層における顧客の特徴
松本様:ブランドによって顧客層の差はあります。例えば、スーパーマーケットで売っている「お好みあられ」のようなものは年齢が高い男性が多い傾向があり、「かきたねキッチン」については40代くらいの女性が多いです。
商品の味付けも年齢層によって好みが分かれます。年齢が高めのお客様ですと、「塩辛くて食べられない」と感じられる場合もあります。実際には塩辛さを感じられる味付けにしているだけで、塩分が異常に高いわけではありません。しかし、年齢層が若くなるにつれて味のはっきりしたものを好む傾向があり、そういった方には香りや味が豊かな商品が喜ばれています。お客様の年代によって味の好みも考慮した商品開発を心がけています。
大谷翔平選手がもたらした「かきたねキッチン」の反響
大谷翔平選手が商品を持っている写真に驚愕!SNSを中心に大きな話題に
会員が約1万人増加した特別な理由
松本様:昨年(2024年)、大谷選手の影響で会員数が大きく増えました。きっかけは、大谷選手が当社の「かきたねキッチン」の手提げ袋を持っている写真がSNSで投稿されたことです。
ファンの方からもコメントをいただくなど大きな話題に発展したことに本当に驚きました。
メディアに多く取り上げられ認知が広がった
大谷翔平選手効果の広がりと持続性
松本様:8月に瞬間的に注文が増えたのですが、影響は12月頃まで続きました。テレビや雑誌でも紹介されて、年末まで各メディアで大いに取り上げていただきました。年末の出荷は本当に大変でしたね。でも、こういった形で認知が広がったのは本当にありがたいことです。
真摯にものづくりに向き合ってきた甲斐があったと実感しました。
ブランド名をしっかりとお客様に良い記憶として残していくことが重要
ECでの集客に工夫していること
松本様:会員になっていただいた方には、特典を用意するなど工夫しています。メルマガでのコンバージョン率も高く、タイミングや企画によっては10%近くという良い数字です。実店舗からECへの誘導は、催事の際にチラシを配布したり、SNSで告知したりしています。「かきたねキッチン」は自然検索からの流入も多いので、ブランド名をしっかりとお客様に良い記憶として残していくことを大切にしています。
ファンとの交流が育てる商品とサービス
味の個性が生み出す熱心なファン層
SNS運用と顧客エンゲージメントの取り組み
松本様:自社商品の評判をSNSなどで確認し、商品を紹介いただいている投稿があれば公式として、積極的にいいねやリポストをしています。「あっという間に5袋食べちゃった」といった驚きの声や、特定のフレーバーに対する熱心なコメントをいただいくこともあります。
かきたねキッチンは味の主張がはっきりしているためフレーバーによっては好みが分かれることもありますが、その特徴が熱心なファン層を生み出す原動力となっているようです。過去には「こんなのあったら面白いんじゃないか」というお客様の声から誕生した商品もありますよ。
評価が高かった商品は、季節限定商品やリバイバル版として再登場
商品総選挙の実施とフィードバックの活用法
松本様:以前にイベントとして企画した歴代かきたねフレーバー復活総選挙の投票結果は、商品開発にも活用しています。評価が高かった商品については、季節限定商品として再登場させたり、リバイバル版として販売したりすることもあります。また、「こういう味が好きなお客様が多いなら、こんな商品も作れるのではないか」という形で、新商品開発の参考にもしています。
現在もSNS上で「おすすめ商品を教えてください」という投稿をすると、たくさんのコメントをいただけます。ECサイトも含めて、非常によいお客様に恵まれているなと実感しています。

商品をより多くの方に知ってもらい海外での実店舗展開も目指す
国内での認知を広げ、海外にも目を向ける
今後の展望
松本様:社内では、EC化率の向上を目標にしています。当社の商品をまだ手に取っていただけていないお客様がたくさんおられますので、露出の機会を増やして認知を広げていきたいです。
将来的な販路拡大を目指してECからの情報発信を通じて土壌作りをしていきたいと思います。
当社はこれからも、伝統を大切にしながらも新しい挑戦を続けていきます。
