三嶋商事株式会社様

治療食・介護食を通して人を救いたい|命に携わる責任感

三嶋商事株式会社 代表取締役 三嶋 賴之様

1982年創業の三嶋商事株式会社は、治療食と介護食の販売を主軸とする専門卸問屋として歩み始めました。2008年にはオンラインショップの運営を開始し、現在ではプライベートブランドの展開も行うなど、時代のニーズに合わせて事業を拡大してきました。健康や命に直結する商品を扱う企業として、その責任を強く自覚しながら日々取り組んでいます。
今回、同社の代表取締役社長である三嶋様とブランディング担当兼管理栄養士である山下様に、企業理念や具体的な取り組み、そして今後の展望について詳しくお話を伺いました。

正しい情報を提供し安心して購入してもらいたい

主な事業内容を教えてください。

三嶋様:私たちの主な事業は治療食と介護食の販売です。特に腎臓病の治療では、病院での治療と並行して栄養指導が非常に重要となるため、腎臓病食に力を入れています。

従来は病院でのカタログ販売が主流でしたが、この方法では地域が限られてしまい、全国の患者さんに商品を届けることができませんでした。そこで私たちは、時代の変化に合わせてオンラインショップを始めたんです。

この取り組みにより、患者さんの利便性が大きく向上し、より多くの方々に治療食や介護食を届けられるようになりました。

三嶋商事様の理念や、お客様への想いについて教えてください。

三嶋様:私たちが忘れてはならないのは、「命にかかわるものを扱っている」という認識です。三嶋商事の商品は単なる食品ではなく、患者さんの治療の一部を担っているという考えのもと、お客様対応には細心の注意を払っています。

例えば、「この商品がいいですよ」といった断定的な提案は避け、お客様の状況に応じて「こういう商品があります」と複数の選択肢を提示するようにしているんです。また、必要に応じて医療従事者への相談を推奨しています。

私たちは豊富な知識を持っていますが、その全てをお客様に伝えることが適切かどうかの判断が非常に難しいのです。そのため踏み込んだ話はなるべく控え、お客様の安全を最優先に考えながら、適切な範囲で正しい情報を提供することが私たちのお客様に対する想いです。

お客様へ正しい情報を提供するために、どのような取り組みをされているのでしょうか?

三嶋様:具体的には私自身も含めて社内外で日々勉強会に参加し、正しい情報を伝える能力の向上に取り組んでいます。また、社員たちは実際に商品を食べた経験があればより自信を持ってお客様に伝えられると考え、自ら積極的に商品を試食し、自分の言葉で評価できるよう努力してくれています。

私たちは医療の専門職ではないため、信頼を得るには継続的な学習が不可欠です。社員1人ひとりが知識を持ち、チームとして商品を扱う体制を整えていくことが重要です。こうした社内の取り組みについてはお客様にも積極的に発信しています。

社内での取り組みをお客様へどのように伝えているのでしょうか?

三嶋様:小規模な会社としては珍しいかもしれませんが、当社は専任の広報担当者を置いています。

広報担当者の役割は大きく2つあります。1つ目は、私たちの想いや取り組みを正確かつ効果的に発信することです。具体的には、「想いの小冊子」を作成し、商品に同梱したり、オンラインショップのトップページに掲載したりすることで、私たちの姿勢や取り組みを積極的に伝えています。

社内での勉強会や知識向上の取り組みはお客様から見えにくいものです。しかしこれらはお客様に安心して商品を使っていただくための重要な基盤となっています。なぜ勉強に力を入れているのか、どのような想いで商品を提供しているのかといった「見えない部分」をしっかりと伝えることで、お客様との信頼関係を築けると考えています。

2つ目は、治療食・介護食の認知度を高めることです。この分野はまだ一般的に知られていないので、業界全体の認知度向上にも貢献したいと考えています。

具体的には、プレスリリースやSNSでの情報発信、イベントの企画・運営などを行っています。最近では腎臓病の食事に関するセミナーをYouTubeでライブ中継するなど、新しい取り組みにも挑戦しているんです。

本当に必要な商品を必要な人に届ける

オンラインショップの運営で直面する課題と対応策を教えてください。

三嶋様:オンラインショップを運営する上で最も大きな課題の1つは、お客様が本当に必要な商品を購入できているかどうかの確認です。治療食や介護食は専門性が高く、適切な選択が難しい場合があります。特に、医療従事者が介在しないオンラインショップでの購入では、この点が常に心配です。

この課題に対処するため、カスタマーサポートの充実に特に力を入れています。管理栄養士の資格を持つスタッフを配置し、電話やメールで専門的な質問に答えられる体制を整え、お客様1人ひとりの状況に合わせたきめ細やかなアドバイスを心がけています。

お客様からの声はどのように活用されていますか?

三嶋様:私たちはお客様からのレビューをとても大切にしています。通常のショップ全体の評価ではなく、各商品に対する具体的なレビューをお願いしているんです。ほかのお客様の参考になるような具体的な調理方法や効果を共有してくださる方も多く、私たちが想定していなかった商品の使い方を知ることもあります。そのため、レビューを見て新たな気づきを得られることも多いです。

印象に残っているレビューはありますか?

三嶋様:例えば、低タンパク米製品を購入してくださった方のレビューでは「小さい頃から何十年も使っていて、今は成人しました」というお言葉をいただきました。ほかにも、「この介護食のおかげで家族と一緒に最後まで暮らせました。現在は必要ではなくなりましたが、もし周りで困っている人がいたら紹介したいです。」といった感動的なレビューをいただくこともあります。

みしまのたんぱく質調整米1/50

介護食でも楽しみを諦めない「食べる喜び」の追求

介護食や治療食は必要に迫られて購入されることが多いと思いますが、お客様により前向きな気持ちで選んでいただくための工夫はありますか?

三嶋様:一般の食品で当たり前とされている魅力的な見せ方を、私たちの治療食や介護食にも取り入れ「美味しそう」「食べてみたい」と思っていただけるよう工夫しています。

私たちは問屋として、主にメーカーから仕入れた商品を販売しています。しかし、治療食や介護食の分野では、栄養素重視のためパッケージデザインや見た目が必ずしも食欲をそそるものではありません。

この課題を解決するため、自社商品の開発に着手し、栄養面の機能性を維持しつつ、見た目にもこだわっています。例えば米製品のパッケージに生産地の風景写真を使用したり、トレーに入っている商品を盛り付けた状態で撮影するなどの工夫をしたりしています。

魅力的な見せ方を追求されているのですね。
新しい商品のアイデアや市場ニーズについては、どのように思いつくのでしょうか?

三嶋様:新しい商品のアイデアは、日々考えています。一般の食品を治療食や介護食としてどうしたら活用できるか、どういった提案ができるかと常に意識しています。

例えば、ある時広報の勉強で訪れた会社で、無添加コロッケを見つけたんです。これを見て「腎臓病の方にも楽しんでいただけるのでは」と思い、製造元の社長に相談しました。その結果、私たちと製造元の両方のブランド名で販売することになりました。このコロッケはタンパク質と塩分が少なく、添加物も不使用のため、安心して食べられます。販売後は「普通のコロッケが食べられる」と多くの患者さんに喜ばれています。

みしまの厳選シリーズ 特選コロッケ

ほかにも、奄美大島の黒糖焼酎「れんと」のゼリーを介護食として販売を開始しました。このゼリーは奄美大島のお土産屋で販売されていたのを見つけたことがきっかけでした。ゼリー状でアルコール分が2.9%残っていることに驚き、可能性を感じて大量に購入して持ち帰ったことが始まりです。

嚥下障害のある方は、普通の液体を飲むのが難しいため、お酒を楽しむことも諦めていることが多いです。しかし、このゼリーなら安全に楽しめるのではないかと考えました。

実際に栄養士さんに評価してもらったところ、れんとゼリーを介護食として使えるという判断をいただきました。そこで製造元に交渉しに行き、介護食としての販売許可を得ました。この商品は、特に終末期の患者さんに喜ばれています。病院で「最後のお酒を楽しむことができた」というお言葉をいただいたときは、患者さんに喜んでもらえたことが本当に嬉しかったですね。

このゼリーは、プレスリリースを通じて大手メディアにも取り上げられ、介護食コンクールで特別賞を受賞し、介護食としても正式に認められました。

これらの取り組みは、患者さんや介護を受ける方々に「普通の食事」を楽しんでいただけるだけでなく、一般食品メーカーに新たな市場の可能性を示すことにもつながっています。「治療食だから」「介護食だから」と諦めていたものを再び楽しめることは、身体的・精神的健康に大きく寄与すると考えています。

「特別なもの」ではなく「普段から身近にあるもの」へ

今後の課題と展望について、聞かせてください。

三嶋様:介護食の認知度向上は、私たちが直面している最大の課題の1つです。現状では、介護が必要になって初めて介護食の存在を知る方が多いのです。介護食を「特別なもの」ではなく、「普段から身近にあるもの」として認識してもらうことが重要だと考えています。

例えば、ベビーフードは一般的に広く受け入れられていますが、介護食にはまだ抵抗があるように感じます。介護食を使うことで介護者の負担を大きく軽減できるにもかかわらず、多くの方がレトルト介護食の使用に罪悪感を持っているようです。私たちは、介護食がベビーフードのように自然に受け入れられ、介護する方の負担やストレスを減らせるようになることを目指しています。介護食を実際に食べてもらう機会を増やし、介護食が「当たり前」の存在として認知されれば、より良い介護環境を作り出せると信じています。

認知度向上のための取り組みとして、行っていることはありますか?

ブランディング担当 管理栄養士 山下様

山下様:介護食や治療食への理解を深めてもらうため、学生の方に試食してもらうイベントを定期的に開催しています。当社について知ってもらうことはもちろんですが、試食を通じて学生の皆さんやその周囲の方に介護食や治療食が身近なものだと気づいてもらうことができればと思っています。

例えば、試食会に参加した学生の方が「実は自分の祖父が腎臓病だった」と、身近な人の状況を思い出すきっかけになったり、引率の先生から「家族や知り合いにも紹介したい」とおっしゃっていただいたこともありました。このように、体験を通じて初めて、自分の周りにもニーズがあるものだと気づく方が多いんです。

そういった気づきから、介護食や治療食の情報が広がり、直接相談いただくケースが増えています。結果として、必要とする方々に、より多くの商品を届けられるようになりました。同時に、この体験を通じて学生の皆さんに介護食や治療食の重要性を理解してもらい、将来的に私たちと一緒に働きたいと思ってもらえるようなきっかけにもなれば嬉しいです。

地域医療に貢献し、人を救いたい

「地域医療に貢献する」ことを掲げていらっしゃいますが、その背景にある考えと具体的な取り組みについて教えていただけますか?

三嶋様:地域医療への貢献という点で、日本の健康寿命と平均寿命の差が約10年あることに注目しています。この10年間は多くの方が介護を必要とし、認知症や寝たきりになるなど、本人も家族も大変な時期です。この状況を改善するためには、各地域の医療の質を向上させることが不可欠だと考えています。そうしなければ、多くの人が不幸になってしまうでしょう。そこで私たちは、地域医療に貢献することで、これらの問題を少しでも軽減できるのではないかと考えました。

具体的には、周りの医療従事者と協力しながら、私たちの商品をどのように使えば良いかを一緒に考え、提案していくことが重要です。こうした取り組みはすぐに広がるものではありませんが、地道に一歩一歩進めていくことが大切だと考えています。現在は専門職の方々から認められ、様々な相談を受けるようになり、直接的に貢献できているという確かな手応えを感じています。

三嶋商事としてさまざまな課題に取り組まれていると思います。その原動力はどこからくるのでしょうか?

三嶋様:私たちの原動力は「人を救いたい」という強い願いです。この業界で長く働いていると、現場で懸命に努力している医療従事者の方々の姿を数多く目にします。現場で働く方々の熱心な取り組みを知るにつれ、私たち事業者も「自分たちにも何かできないか」という想いが強くなります。命にかかわる商品を扱う責任感と、医療の現状を改善したいという想いが、私たちを突き動かしています。

健康や命にかかわる商品を扱う企業として、私たちには大きな責任とやりがいがあります。1つひとつの商品と1人ひとりのお客様を大切にし、より良い医療・介護環境の実現に向けて努力し続けたいと思っています。

左:三嶋商事 三嶋様 右:Eストアー 中野
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