“ママらしさ”の枠を越えてお母さん目線で届ける自分らしさという宝物
2008年の創業以来、15年以上にわたりマタニティ服と授乳服の製造販売を続けてきた株式会社ミルクティー。母親の切実なニーズから生まれたブランドは、常に新しい挑戦を続けながら、多くの妊婦さんや子育て中の方の支持を集めています。今回、子育てをしながら起業をした原動力と「ママらしさ」という固定観念から解放された、自分らしいファッションを楽しんでほしいという想いについて創業者の金美里様にお話を伺いました。
「絶対にやらなければ」という強い気持ちが起業の原動力になった
ミルクティーを創業した経緯を教えてください。
金様:長女が誕生したことがきっかけで、2008年に創業しました。出産後の子育ては想像以上に大変で、外出もままならない日々が続きました。春になり暖かくなってきたころ、ようやく外出を試みましたが、そこで授乳の問題に直面したのです。
その後授乳服を探し始め、高価でしたが1枚購入したところ、外出が楽しくなりました。鏡を見たらハッピーな気持ちになれたんです。「もっと手頃で多様な授乳服があれば」と思い、自作を決心しました。最初はマタニティ服の仕入れから始めたのですが、初めて制作した一着目の授乳服が予想外に売れたことで、本格的に事業をスタートさせました。
今では「ballet shop abby(バレエショップアビー)」と「AVERY(エイブリー)」という、2つのブランドも展開しています。
起業の原動力は何だったのでしょうか?
金様:最大の原動力は、自分自身の切実なニーズでした。妊娠・出産を経験して「もっと手頃で多様な授乳服があれば」と思い、自分で作ってみようと決心しました。自分がすごく欲しかったものなので、他の人も欲しいと思っているはずだという強い確信がありました。自分自身が感じた「欲しい」という気持ちがそのまま原動力になったんです。
当時娘が生まれてわずか3ヶ月。売る商品さえ決まっていない状態でしたが開業届を税務署に提出しに行きました。
生後3ヶ月で開業はすごいですね。子育てしながらの起業、不安はありませんでしたか?
金様:不思議なことに大きな不安はありませんでした。本当にやるべき時というのは、誰が止めても行動してしまうものなんですよ。人間の中には大切なセンサーがあって、それが「今がその時だ」と教えてくれるんです。
私の場合は、不安よりも「絶対にやらなければ」という強い気持ちの方が大きかったですね。それが原動力になって、子育てをしながらの起業に踏み切れたんだと思います。
子育てと仕事の両立で苦労されたことは?
金様:子育てと仕事の両立は本当に難しかったです。自分しか構ってあげられない、母親は自分しかいないという状況の中で、どう折り合いをつけるか常に悩み、プライベートと仕事の境目があいまいな状態で乗り越えてきました。保育園や実家の協力なしでは成し遂げられませんでしたね。当時を振り返ると恵まれていたと感じています。
共通認識は「お母さん目線を大切にすること」
お客様に対して常に意識されていることは何ですか?
金様:最も重要なのは、お客様であるお母さんの立場にたって考えることです。小さなお子さんを抱えたお母さんの生活がいかに制限されているか、自由に行動できる時間がいかに少ないかを理解し、そのような状況でどのようなサポートができるかを常に考えています。
スタッフには、商品の受け取り日時の設定や連絡が取れない時の対応など、全てにおいてお母さんの状況を考慮するよう伝えてきました。今では、スタッフ1人ひとりが自然とお母さんの立場にたって考えられるようになっています。
具体的にどのようなことをスタッフの方々に伝えていたのでしょうか?
金様:例えば、ミルクティーの営業時間は9時半~17時なのですが、9時前に電話がかかってくることがあります。営業時間外ではあるものの、その際、お母さんが電話をかけるのがどれ程大変か想像してほしいと伝えました。赤ちゃんがやっと寝てくれて、「今しかない」という貴重な時間に、やっと別の部屋に行って電話をかけてくれている可能性があります。もしかしたら、赤ちゃんが起きる前のこの数分が、その方にとって唯一の機会かもしれないんです。
そういったことを想像して「9時前だから対応できません」ではなく「今、このお母さんにどんな支援ができるか」を考えてほしいと思っています。お母さんの日常の苦労や、限られた時間の中でやりくりしている姿を具体的にイメージし、理解することが大切です。
ただし、これは単に「お客様は神様です」という精神ではありません。お客様1人ひとりの状況に寄り添い、その人にとって最適なサポートは何かを考え抜くことが大切なんです。そういった姿勢が、私たちの会社の共通認識となっています。
制作段階にも、このような理念は反映されているのでしょうか?
金様:そうですね。授乳服の制作では、普通のシースルーブラウスをマタニティ服にする際、単にサイズを大きくするだけでなく、「インナーがついてないと困る」「授乳期のブラは肩紐の厚みがあるから、キャミソールだと紐が見えてしまう」といった細かな点まで考慮しました。
このようなお母さんの小さな困り事を1つひとつ先回りして考え、スタッフと共有して制作しています。こういった議論を重ねることで、自然とスタッフ全員がお母さんの立場にたって考えられるようになっていると感じています。
マタニティ服・授乳服に込めた想いがお母さんに届く喜び
お客様からはどのような声がありますか?
金様:心のこもったお手紙をいただくことがあります。「赤ちゃんと二人きりの辛い日々でしたが、この服に出会えて本当に嬉しかった」といった内容のものが多いんです。これは1人や2人ではなく、たくさんのお客様から届くんです。
スタッフとよく話すのですが、普通の洋服店で服を買って嬉しかった時に、わざわざお手紙を書こうと思う人はほとんどいないと思うんです。でも、私たちのお客様は違います。 私たちが大々的に「こんな問題意識を持っています」とか「この服はこんな想いで作りました」と伝えているわけではありません。それでも、お客様は私たちの商品を通じて、こだわりや愛情、妊婦さんや子育て中のお母さんへの想いを感じ取ってくださるんです。そこまで共感し、感謝の気持ちを伝えてくださることに、大きな喜びを感じています。
お客様とのコミュニケーションで大切にしていることを教えてください。
金様:例えば、感謝の気持ちを込めてお客様へ手書きの手紙を添えることがあります。また、お客様の購入履歴を調べて、それに基づいたアドバイスや提案をしています。こういった小さな心遣いがお客様にも喜んでいただけており「手紙がとても嬉しかった」「それだけで心が救われた」といった声をいただくことが多いんです。
このような経験を通じて、単に商品を届けるだけでなく、お客様1人ひとりに寄り添い、心のこもったコミュニケーションを取ることの大切さを実感しています。
「ママらしさ」という制限を取り払い「自分らしさ」を届けたい
ミルクティーが目指すものとは具体的にどのようなことでしょうか?
金様:私たちが目指しているのは、機能性とデザイン性の両立です。マタニティ服や授乳服は、どうしても機能面が重視されがちですが、私たちは「ママらしさ」という制限をどこまで排除できるかを目指しています。
お母さんになると、周囲の目や子供のコミュニティの中での立場など、様々な制限を感じやすくなります。そういった制限をできるだけ取り払い、お母さんがより自由に、自分らしく過ごせる服を提供すること。それが私たちの日々のチャレンジなのです。
例えば、マタニティ服でもシースルー素材を使用したり、ウエストが100センチあっても細く見えるようなデザインを工夫したりしています。マタニティ服や授乳服は、体型の変化や授乳の必要性から、デザインや機能に「制限」が生じます。しかし、そういった制限があっても、個性を表現し、自分らしさを失わない服作りを心がけています。それは単にトレンドを追うということではなく、1人ひとりのお母さんが自信を持ち、自分らしくいられる、そんな服を作ることなのです。
妊婦さんに人気のカラーなど、選ばれる商品に何か傾向はあるのでしょうか?
金様:意外なことに、黒や紺色よりも、ピンクやベージュ、白などの明るい色を求めるお客様が多いんです。毎年人気があるのはベージュですね。ベージュは落ち着いていて、どんなシーンでも使いやすいカラーです。
試着会などのイベントでは、あえて明るいピンクや白、ベージュを前面に出すようにしています。黒は意外と最後まで残ってしまうことがありますね。
意外ですね。黒や紺色が好まれるのかと勝手に思っていました。なぜ明るい色が人気なのでしょうか?
金様:気持ちの面が大きいと思います。妊娠中だからこそ、普段は選ばないような明るい色や可愛らしいデザインにチャレンジできる、という気持ちがあるようです。例えば、「普段は可愛いものが好きだけど、年齢的にクマちゃんのデザインなんて選べない」と思っていても、妊娠中だからこそ「今しかない」という気持ちで挑戦する方が多いのだと思います。妊娠中は、自分の好みや趣味が劇的に変わる方もいます。
これまでずっと我慢していた欲求を、妊娠中にようやく満たせるという面もあるのかもしれません。妊娠中だからこそ、新しい自分を発見したり、普段とは違う自分を表現したりする機会になっているようです。このような気持ちの変化や欲求に寄り添える服作りも、私たちが目指しているところの1つです。
人が価値を感じるものを提供し続けていきたい
最近のお客様の価値観や購買傾向に変化を感じますか?
金様:以前は、単に必要というだけの理由で商品が売れる時代もありました。しかし今は違います。単に「必要だから買ってください」というアプローチでは、もはやお客様の心は動かないんです。
例えば、590円の子供用ズボンを買っても「もったいない」と感じる一方で、9900円のこだわりのある商品なら「欲しい」「安い」と思えることも。つまり、人が価値を感じる基準が大きく変わってきていると思っています。単に価格の安さや必要性といった理由ではなく、誰がどんな想いで作ったのか、その商品にどんなストーリーがあるのかが重要になってきているんです。だからこそ、私たちはマタニティ服・授乳服に込めた想いや、それを着ることで得られる喜びをしっかりと伝えていく必要があります。
単に売って終わりではなく、お客様に「この服のおかげで救われた」「買ってよかった」と心から感じてもらえるような価値ある商品を提供し続けていきたいと思っています。
その傾向を踏まえて、今後どのような服作りにチャレンジしていきたいですか?
金様:私たちが今後挑戦したいのは、着る人をワクワクさせ、目をキラキラさせるような服作りです。単に機能的で実用的な服を超えて、心を動かすような服を作りたいと思っています。
年齢や周りの目、社会の常識など、そういった制限を全部取り払って、本当に大事に作られたものを、自由な感性で「着たい!」と思える服を作ることなんです。
例えば妊婦さんだからこそ普段は選ばないような可愛い柄にチャレンジしたり、お母さんだからといってシンプルな服ばかりではなく、自分らしさを表現できる服を選んだりしてほしいんです。そういったお客様の「着たい!」という気持ちを大切にすることで、私たちの服がお客様にとって「宝物」のような存在になることを願っています。